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SPRING STORM Vol.1

 前回の日曜日から SPRING STORM という新作を読み始めました。テネシーの処女長編戯曲、1937年の作品です。参加は9名。楽しくて久しぶりに興奮し、家に戻ったら運動した後みたいに筋肉の温度が上がっていました。

 何が楽しいって、物語の展開や登場人物の情報を、皆でひとつひとつ発見していくことです。今回は全体を3回に分けて読む計画で、脚本はあえて毎回読む会の分だけ当日お渡しすることにしました。つまり予習なし、初見で読む。私は固有名詞や時代背景でわかりにくいところだけ解説を入れるようにして、あとは全員で輪読です。数頁読んだら感想を話し合い、つかんだ情報を確認して、次に進む。

 最初は慣れない感じもあったものの、設定や人物のイメージがわかってくると、皆さんの集中力は加速度的に上がり、比較的長い台詞回しから随所に飛び出す意外な展開に、笑ったり、驚いたり、ほっとしたり。

 自分のペースで没頭できる翻訳作業と、人と一緒に声を出して読む作業、どちらも違った楽しみがありますが、やっぱり皆で読むのはパワフルな体験です。次回が待ち遠しい!
# by tnexpress | 2012-10-25 23:29 | ワークショップ記録

TRIBES

今日はニューヨークのBarrow Street Theatre で、"TRIBES" というお芝居を観た。
200人くらいの観客が会場中央のセットの四方を囲んで座る、臨場感のある環境。

主人公のビリーは聴覚障がい者だが、健常者の家族は手話の使用を許さない方針で彼を育ててきた。シルビアは聴覚障がいのを両親を持つ手話の通訳者、自分も徐々に聴覚を失いつつあることを自覚している。この二人が出会って恋に落ちる。ビリーには新しい世界が開かれ急速に自立意識が芽生えるのが、シルビアは音が全く聞こえない世界が日々近づいてくることに恐怖を募らせる。

素晴らしい脚本で、そして自分の障がいと戦わなくてはならない境遇に生まれた悲しみと怒りを体現した二人の俳優(Russell Harvard, Susannah Flood) にも胸を打たれた。人の感情と言語の結びつきについて、核心をついた見せ場がたくさんあって、観客は何度も「あぁー」と声を上げていた。

「"LOVE" という言葉を知らないで、どうして "愛している" ということがわかるの?」
「言葉がなくたって、感情は表現できるわ」

そして手話で、様々な感情を豊かに表現するシルビアを見て、私たちはそれがバカな質問だったことに気付くのだ。意思伝達は言葉でするものという思い込み、言葉が先にあってそこに感情が分類されていくような思い込みを、していないだろうか。本当は逆だ。

その証拠に、英語使用者たちがもっとも根源的なフレーズと信じている I love you にあたる言葉は、日本語にはない。愛情はあるけれども、それは根源的すぎて言葉にならないのが日本語なのだ。特に、しゃべらせないといけない脚本の翻訳では一番困る部分である。

これはほんの一例で、本当にいろんな大事なことを考えさせてもらった。何度かじっくり見てみたい作品だ。

公演情報はこちら : TRIBES
# by tnexpress | 2012-10-06 13:07 | 観劇ノート

ブエノスアイレスか・・・

ここに来たら、一筆書きたかった。ブエノスアイレス!

昨年作った THE LONG GOOD-BYE で、主人公の青年が家族の記憶が染みついた家を出る準備をしながら、どこか遠くに行けたらなあ、という意味で 「ブエノスアイレスか・・・」 と空を仰ぐセリフがあったのだ。余白のあるセリフで、以来その町がどんなところなのか気になっていたものの、1年以内に実際に来れるとは幸運だった。

初めての滞在だというと皆、「町の印象はどう?カオスでしょ?」という。
そして地元の人たちの誇りは 「ノスタルジック」 であること、これが最上位だ。
ブラジルはサンバでしょ、僕たちはタンゴだから、ね、全然違う、と言われるとわかりやすい。

THE LONG GOOD-BYE と ノスタルジー、ぴったりとパズルがはまるではないか。
「ブエノスアイレスか・・・」を私は当初、「カオス」の方で解釈していた。父の出奔、母の病気、妹とのけんか、主人公を追いかけてくる悲しい記憶を断ち切るために、知らない町で喧噪に身を沈めたい、という意味で読んでいた。
それもあったろうけれども、ここでサンパウロとか、メキシコシティーではなくて、「ブエノスアイレス」を呟かせたテネシーのイメージは、もっとシンプルだったのかもしれない。
こんなふうに、長い期間の疑問がふと、体験的に腑に落ちる瞬間はとても好きだ。

もうひとつ、町の名前は 「ブエノス=Good」、「アイレス=Air」 という意味だそうだ。
「いい空気」の中で誕生日を迎えられた今年は幸先がよい、かもしれない。
# by tnexpress | 2012-09-29 23:52 | 道草

無名時代の作品

 前回書いたのが7月15日、ということはもう2ヶ月も過ぎている•••速いですね。
しばらく翻訳作業をしていました。暑さにめっぽう弱い私は、旅行から戻ってからこの夏は遊びに出る気になれず、休日はエアコンの効いた家の中が楽ちん。そのお陰で作業もはかどりました。

 今取り組んでいる作品はSPRING STORM という、テネシーがまだ詩人のトムだった若い時代に初めて書いたという長編戯曲です。当時は周囲から酷評を受け、上演されないまま忘れられて90年代になってから原稿が発掘されたそうです。私は2010年にロンドンのナショナルシアターでの上演を見てその存在を知りましたが、その時は「過去にアメリカで1回上演実績があるだけで、イギリスには初上陸」という宣伝文句でした。日本では翻訳も出版されておらず、ほとんど紹介されていないと思います。

  上演を見て、その後本を読んでみて、私はこの作品がとても好きになりました。確かに若さゆえの浅さ(というか丁寧すぎるところ)が所々にあって、世界中にたーくさんある脚本の中からこれを選ぶかと言われると難しいですが、テネシーファンとしては、彼の出発点を丁寧に探検できるというスリルがあります。そして、初心者ゆえの丁寧さが、逆に脚本やお芝居に慣れていない人にとって入りやすい内容を生み出している面もあります。それで、この作品の存在と面白さを紹介していく企画を計画しています。
 このブログでも、時々書いて行きましょう。
# by tnexpress | 2012-09-17 11:30 | 翻訳作業

バウハウス

ベルリンにやって来ました。早めの夏休みです。
散策を始めて2日目の今日は、Bauhaus資料館をじっくり見てきました。

Bauhausといえばモダンデザインのアイコンですが、それがいったい何なのか一言で説明せよと言われると難しい気がします。しかし資料館の展示内容と音声解説のお陰で、今日はその全体像の理解が進みました。それは、学校でありながら、作業場であり、実験場であり、デザイン事務所でもありました。建築、家具、テクスタイル、生活用品、写真などあらゆる分野で、教師も生徒も常に新しいことの創造にエネルギーをかけていたようです。次世代のクラフトマンの要件としてアーティストたることを求めたという印象も受けます。当時のクリエイターたちの刺激的なコミュニティが、Bauhausの時代を超えた発信力につながっているのだということに、深い感動を得ました。

「最小の力で最大の効果を」というコンセプトも私はとても好きです。努力を嫌っているように思ってはいけません。彼らは「最小の力で最大の効果を」出すための膨大な努力をしていたのです。そういうことを今日は学ばせてもらいました。

それにしても、今私たちが楽しんでいる文化の様々ななものが、1910年代に事が始まり、30年代から花開き、40年代以降に普及していることに最近関心を持っています。写真、映画、レコード、今日のBauhausもそうでした。近代化と、二つの世界大戦が世の中にもたらしたエネルギーだったのでしょうか。テネシー•ウィリアムズも1911年に生まれて、30〜40年代の記憶を作品に投じ、40年代に大ブレイクしました。社会の隔離された家庭や人物のたちの物語が多いのですが、その背景にはそれまでにない勢いで変化する社会の大騒音があったのではないか。そうと思うと、テネシー作品のもつ行き詰まり感の意味合いもさらに深く感じらてくるのです。

Bauhaus資料館
# by tnexpress | 2012-07-15 22:42 | 道草